2020年12月20日

第1章 プロローグ

桜の舞う季節、小学校には子供たちの笑い声が響き渡る。新学期を迎えたこの日、どこの教室からも元気な話し声や廊下を走って注意される声などで活気が溢れている。三年生の教室もそれは同じで、始業式が終わって帰り支度をしている生徒達で賑わっていた。
そんな教室の片隅でその喧騒をよそに静かに座っている少女がいる。小柄だが姿勢がよく、凛としたその空気は年齢よりも大人びていて、落ち着いている。彼女の憂いた視線は一枚の写真に注がれていた。それは財布からそっと取り出したもので、小さく、彼女はこっそりとそれを眺めていた。写真には沢山の鮮やかな風鈴が夜の空に舞っている様子と、手前に笑顔の子供たちが写っている。その楽しそうな様子に彼女は微笑み、しかし同時に少し寂しそうな表情を見せる。
「すごく綺麗、どこかへ行った時の写真?」
話し掛けられ、視線を少し上げるとそこには興味津々で瞳を輝かせた少女がいた。その少女に彼女、上浜かみはま優理ゆうりは曖昧に微笑んだのだった。

 

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